朝の出来事

朝、信号待ちをしていた。
大きな幹線道路を渡るための、信号。


早い時間だったから、人はまばら。

歩道をゆっくり、歩いてくる年配の男性。
少し足が不自由そうかな、と思った。
近くには土手があるし、朝のお散歩かな。


私の前で信号待ちをしているのは、30代くらいの男性。
ラフな格好で、ちょっとだけ怖そうな感じに見えた。
たまに、この交差点で見かける気がする。


その人が、年配の人に向かって、大きめな声で何か喋った。
車の音で、何を言ってるかは分からなかった。
同時に信号機の柱のところをガチャガチャガチャと乱暴に押した。


何を言ったんだろう。
おじさんに気に入らないことでもあったとか?


そっと様子を探り、何を押したのか確認したら、歩行者信号の青を延長するやつだった。


あっ、そういうことか。
ようやく私は理解した。


気づかなかったな。

ゆっくり歩いてくる人と、長い横断歩道と、延長ボタンが繋がらなかったな。


数秒前の光景を思い出してみる。
おそらくだけど、「足悪いんか。いるんだろこれ。押しといたるわ」みたいなことを言ったんだろうと思った。


優しい人だなと思った。



信号が変わり、私たちはそれぞれ歩き出した。


ちょっと怖そうなあの人は、私の少し前を行く。
でもほんとはもっと早く歩けるんじゃないかな。


振り向かないけど、きっと、後ろを歩いているおじさんの気配を探っている。


自分は渡り切っても、もし立ち往生しそうなら駆け戻れるくらいの距離にいる。


私もさりげなく後ろを見る。



信号は点滅し始めたけど、おじさんは渡り切るところだった。


あの人も、おじさんが渡るのを確認したのか、もう気にしていないように見えた。

私とは違う方向へ歩いていく。



バスが見えて、私は走り出した。




*  *  *  *  *





なんというか、世界ってものすごく優しいんじゃないかと思える時間でした。

残しておきたくて、記事にしてみました。



えへ。



読んでくださってありがとう。